ひと:PEOPLE
2024.12.12

【前編】いきる建築 建築家・佐藤 欣裕

<はじめに>
TAYUTAUの設計を監修された佐藤 欣裕さんに、これまで自身の設計に対して影響を与えたものや、大切にされてきた思想を伺いました。それにより見えてきたものは、TAYUTAUがなぜこの形になったのか、どんな力が隠されているのか、まだ見ぬTAYUTAUの可能性。まだ明らかになっていないTAYUTAUのDNAを紐解きます。

INTERVIEW MEMBER

MOLX.Ltd
建築家
佐藤 欣裕
Sato Yasuhiro

有限会社もるくす建築社。自然のもたらす流れを理解し、その力に逆らわず活かす、原理的な住まいをつくり続ける建築事務所。湧水に囲まれた田園地帯(秋田県仙北郡美郷町)にオフィスを構え、環境建築分野を中心に活動を行う。

INDEX
目次

1.ベーシックな建築をつくる

1-1. 建築家 佐藤 欣裕

佐藤:
佐藤欣裕建築設計事務所の代表をしている佐藤 欣裕です。寒冷地である秋田県で、人にとって適切な温熱環境が整備された建築をつくるために、日々試行錯誤を重ねながら設計に取り組んでいます。

佐藤:
木材や漆喰、土など自然素材を用い、できる限りベーシックな建築をつくることを住宅設計において大切にしています。なぜなら、建築は長きに渡り使用されるため、物質的にも社会的にも耐久性が求められるからです。だからこそ、流行よりも必要な要素をしっかりと取り入れることが大切だと考えています。

[住宅の本質に向き合いつづける佐藤さん。さらに伺うと「ベーシック」という言葉に秘められた住宅を設計する上で大切にしている考え方が見えてくる]

佐藤:
僕にとってベーシックな建築とは、その敷地の環境に添った建物を設計すること。一口に環境といってもその対象は、地球環境のような大きなスケールから、人の環境まで様々です。だからこそ、設計者のエゴによって、外観が奇抜なものになってしまったり、内装も写真映えするようなものを目指してしまったりすることは適切でないと考えています。住宅を構成するために、選び抜かれた一つひとつの物事には、必ず根拠が必要です。

[事務所を構える、秋田県仙北郡美郷町。冬は寒波にさらされる積雪地域であり、夏には盆地ならではの暑さがある過酷な環境で、人にとって最適な住宅とは何かを考えつづけてきた佐藤さん。大切なことを伺うと、何かに偏らないベーシックな建築をつくることだという]

1-2. 有機的かつ近代的、建築を構成する素材のバランス

佐藤:
住宅の設計をはじめた初期のころ、自身が活動の拠点としている秋田のような寒冷地に適切な建築、そして自然環境に配慮したエコロジーな建築をどうしたら実現することができるのか、模索する中で出会ったのがスイスやオーストラリアの建築でした。今でこそ環境配慮は一般的になりましたが、当時からスイスやオーストラリアはエコロジカル(自然環境との調和)を高い次元で実現し、さらに意匠性の高い建築をつくり出していました。

[秋田県の気候と似ている部分があるスイスやオーストリアの地に足を運び、寒冷地の住宅において優れた温熱環境をつくるために必要なことを学んでいた佐藤さん]

佐藤:
現地に行って一番影響を受けたのは、農村部に建つ建築でした。牧草地が続く牧歌的な風景に人口2000〜3000人程度の村が点在していますが、そこには驚くような密度で自然エネルギーに配慮した建築が並んでいました。

[都心部に建つような奇抜で先進的な建築が脚光を浴びていた当時、佐藤さんは自然環境のそばに建つ、人々の暮らしに寄り添う住宅へ惹かれていた。]

佐藤:
現地の建築の特徴は、有機的かつ現代のユーザーの要求を満たしたものだったと思います。木や土の素材感を活かした構成は、機能性、意匠性含め高いレベルで融合され、快適性にも優れていました。それらがバランスよく用いられた現地の建築は、環境への負荷、造形美、人の心地よさなど、様々な面でバランスのとれたものとなっています。現地で体感したその絶妙なバランス感覚は、僕がつくるベーシックな建築に活かされています。

2.技術を紐解き、その知恵に着目する

佐藤:
スイスやオーストリアで体感した建築の他に、僕がつくる建築に影響を与えたのは、日本に古くからある伝統的な民家です。

[伝統的な建築に目を向けること。それは技術をそのまま模倣することではないという]

佐藤:
伝統的な建築をよく観察し、外観の形状や、使われている内装材はなぜ選ばれたのか。その『理由』に目を向けていくことで、受け継がれてきた先人の知恵を学ぶことができます。

[TAYUTAUの外観の特徴である越屋根や、強い日差しから家を守るために屋根に取り入れている断熱材の厚みに関しても、先人の知恵からインスピレーションを受けていると佐藤さん]

佐藤:
住宅の温熱環境を考えていく上で、大切なことは4つあります。それは、「断熱」「蓄熱」「調湿」「排熱」です。TAYUTAUでは、これらを考える上で先人たちの知恵を、観察、咀嚼し、現代に合う形で再構築しています。

2-1.TAYUTAUにおける、断熱・蓄熱の特徴

佐藤:
TAYUTAUの住宅の断熱と蓄熱を考える上で欠かせないのが、『屋根断熱』です。TAYUTAUでは、木材を原料につくられる『木繊維断熱材』を厚さ300ミリほどで吹き込むことで、太陽の熱が室内に届くまでのスピードをゆるやかにし、心地よい室内環境をつくりあげています。

[屋根断熱の重要性を説く佐藤さん。これは茅葺屋根の断熱にインスピレーションを得ているとのこと]

佐藤:
茅葺き屋根が特徴的である、民家の代表例である白川郷。その屋根は茅(ストロー状の草)で構築され、その厚みは600ミリほどです。そして、一本一本の茅には空気が含まれているため、断熱材としての役割を果たします。さらに、600ミリの厚みをもたせると、熱が伝わる量を抑制してくれるだけではなく、蓄熱性能を上げ、伝わるまでの時間も抑制してくれます。断熱という考え方がまだなかった時代に、先人たちは自分たちが心地よく暮らすために、どうしたらいいのか検証を繰り返し、住宅のあるべき姿を見つけていたんです。彼らが作り上げたものをよくよく観察することで、現代にも活かすことができる知恵を見つけることができます。

[ストロー状の茅の内側や重なるその間に空気が留まることで、熱の伝達は緩やかになり断熱材としての役割を果たす。ただ、現代において茅を重ねて厚さ600ミリで重ねて使えばいいかというとそうではない。断熱性能の数値が高い近代的な素材と、受け継がれてきた知恵を組み合わせることで、機能性をさらに引き出すことができる]

2-2.TAYUTAUにおける、排熱の特徴

佐藤:
自然環境を活かす上でもう一点重要な点が、排熱の在り方です。室内外の温度差と建物の高さを利用して、室内に溜まる空気を外に逃すためにつくられているのが『排熱窓』。越屋根や建物の一番高いところに設けられたその窓は、排熱口の役割を果たし、室内の暑い空気を外に逃がしてくれます。特に越屋根の形状は伝統的な木造建築にも見られる方式で、排熱機能に必要な要素を追求していくと自然とそのような形になるのだと思います。

後編へ、つづく。

撮影協力:鎌倉青山 kamakura seizan

Photographed by Kuramoto Akari & UNIIDEO INC.

WRITER
TAYUTAU 編集部
ひと:PEOPLE
2024.12.12
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